先週末、「全国カジノ賭博場設置反対連絡協議会」なるカジノ反対運動の決起集会があったので、ちょっとのぞかせていただいた。
近く発売される『週刊ダイヤモンド』でカジノについて書かせてもらっているということもあったが、なによりも反対派のみなさんがどんな戦略を打ち出していくのかということに、個人的にも大変興味があったからである。
【
誠ブログ】より
前々回のコラムでも触れたが、今のIR(カジノを含む統合リゾート)議論は推進派のやりたい放題という状況がある(関連記事)。
まだ法案も通ってない状況なのに、「お台場や沖縄にIRができるぞ」なんて噂話をせっせっと流して“既成事実化”にいそしんでいる。
そういう涙ぐましい努力の甲斐あって、「東京オリンピックもあるし、観光誘致のためにはいいんじゃね」というムードすら漂い始めた。
そんな圧倒的不利な状況下で、いろいろな意味での「市民」、どういうカウンターパンチを繰り出してくるのか。
それとも、パンチを出したものの豪快に空振りしてしまうのか。
ヤジ馬的好奇心を抱きつつ集会に足を踏み入れると、予想していた以上の盛り上がりをみせていた。
住民に殴り殺されかねない共産党の大門実紀史さん、社民党の福島瑞穂さん、という「反対運動」といえばおなじみのお二方が、「そもそも賭博は違法でお話にならない」とか「敗者を前提とするビジネスなど認めない」とかおっしゃって拍手を浴びるなか、その両者よりも輝いていらっしゃったのが、沖縄社会大衆党の糸数慶子参議院議員だ。
全国区ではあまり有名ではないかもしれないが、IR関係者の間ではその名が轟(とどろ)いているアンチカジノの論客である。
ちなみに、吉本興業など「沖縄カジノ」を推進する企業とガッチリと手を組む仲井眞弘多県知事の「天敵」としても知られている。
上品で穏やかな雰囲気のなかに強い意志を感じる語り口は、“保守のマドンナ”こと櫻井よし子さんをほうふつさせる。
そんなキャラ的にみても、IR推進議論の盛り上がりによってメディアへの露出もグーンと増えていくことは間違いない。
無論、“反対ロジック”もしっかりされている。
「カジノ問題を考える女たちの会」なる団体を設立し、もうかれこれ15年以上もアンチカジノ闘争を続けているという「実績」に加え、韓国やマカオに足を運び、ギャンブル依存症や、カジノのかたわらで増加する売買春問題を現地調査しているため、他の反対派と比較して「説得力」がある。
それらの「調査結果」をまとめたDVDはなかなか秀逸である。
例えば、『カジノの街は今 韓国・江原道』なるタイトルの映像では、韓国内で唯一の自国民に開放されている「江原ランド」を現地調査。
なかでもインパクトがあるのは、古江信用組合のチェ・ドンスン理事長などへのインタビューである。
彼は自らのことを、過疎地となった炭坑街・江原道の振興のためにカジノを推進した張本人だとして、このようにぶっちゃける。
「このままでは住民に殴り殺されかねない」
ご存じの方も多いと思うが、江原ランドでは今、ギャンブル依存症がえらい問題になっている。
近くには質屋が並び、カジノですってんてんになった人々が家族に見捨てられ、ホームレスに身を落としたり、廃墟となった団地に住み着いたりしているんだとか。
当然、強盗や空き巣などの犯罪も増えた。
つまり、カジノで雇用は確かに増えたものの、治安がドカンと悪くなったというのである。
こうなってしまうと、ファミリー層などは逃げていく。
後に残されたのは、年寄りや引っ越すことができない貧しい人たちばかりとなり、不満や怒りが「カジノで過疎の街がよみがえる」とふれまわった推進派たちへ向けられているというわけだ。
IR推進派の反論そのような話を聞くと、IR推進派はだいたいこのような反論をする。
韓国で問題になっているのは単体のカジノでIRではない。
しかも、日本は外国人観光客をターゲットにしたものなので、江原ランドのような社会問題も起こらない、と。
ただ、これもビミョーな話である。
カジノ運営のノウハウがない日本でIRをやろうと思ったら現実問題として、海外のIRオペレーターの手を借りなくてはならない。
では、その時にIRオペレーター側が日本政府にどういう条件を提示するのかといえば、それは間違いなく「日本人への開放」である。
世界でも所得の高い日本人を「客」にしたいというのは営利企業なら誰でも思う。
実際に、日本が手本としているシンガポールでも当初は自国民入場禁止という話だったが、IRオペレーターの圧力で政府が折れ、フタを開ければ8000円程度の入場料で自国民も利用できるようになり、順調にギャンブル依存症を増やしている。
シンガポールでマリーナベイサンズを仕掛けたIRオペレーター「ラスベガスサンズ」が東京・大阪以外で進出はしない、と明言しているのはこれが理由だ。
カジノはきれいごとですまされない。
いいものも入れば、これまでこの国にはなかった悪いものも入ってくる。
そういう副作用の部分も受け入れたうえで、それでもまだわれわれには必要なのかという議論をすべきだろう。
「全国カジノ賭博場設置反対連絡協議会」はクレサラ弁護士のみなさんが呼びかけている。
外国企業にはあまり馴染みのない「敵」だが、その手強さはハンパではない。
多重債務者問題、非正規雇用問題、貧困問題など、彼らは常に「弱者」を寄り添うことで日本の法整備にも大きな影響を与えてきた。
そういう人たちが次なる獲物として「カジノ」を選んだという意味は大きい。
役者はそろった。
推進派と反対派。
そして海外のカジノ企業らをまじえた三つどもえの「場外乱闘」に注目したい。
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