カジノの「悪いイメージ」が変わる?国会に提出されたIR推進法案昨年12月3日、特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法案(IR推進法案)が議員立法として国会に提出された。
いわゆるカジノ法案だ。
今年の国会で可決成立するかはわからないが、審議が始まれば、多数の日本国民がカジノについて考える好機となるだろう。
IR推進法案の第1条で法律の目的が述べられている。
特定複合観光施設(IR=統合型リゾート)の整備推進が「観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資するものであることに鑑み、……中略……基本となる事項を定めるとともに、特定複合観光施設区域整備推進本部を設置することにより、これを総合的かつ集中的に行うことを目的とする。」と。
IRプロジェクトの目的は経済活性化に効果があるからであり、集中的に審議して早く決めよう、と言っている。
続けて法案第2条では、特定複合観光施設(IR)は、「カジノ施設及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設であって、民間事業者が設置及び運営をするもの」と定義している。
IRはカジノ施設だけでなく多様なビジネス・レジャー施設の集合体だ。
推進法制定後、1年かけて、民意を反映しつつ議論を深め、実施法(新法と関連する現行法の改正)を作る、というのが推進法の目的だ。
そして、超党派の国際観光産業振興議員連盟(IR議連)は実施法についても議論をかなり深めている。
(そのポイントについては、3月25日掲載予定の後編で紹介する)
同推進法案はしばしばカジノ法案と呼ばれるように確かにカジノ施設を中心としている。
だが、日本人にとって、カジノと聞いて連想するイメージは多様であり、どうも法案で示されているものとは違うことが多いようだ。
日本の場合、競馬など公営ギャンブルやパチンコ店という特殊な遊技場があるため、それらに対する嫌悪感をそのままカジノに結びつける人も少なからずいる。
一方で、近年、マカオやシンガポールが建設・整備を進めてきたIR施設を訪れたことがある人ははっきりと法案が示しているイメージをつかんでいる。
筆者の知人でこの年末年始をマカオで過ごした人は、「庶民が行くフロアを見た限りでは、大きなショッピングモールにあるゲームセンターみたいなもの」と表現していた。
法案作りに関わった研究者やビジネスとしての参入を狙う企業に聞いたところをまとめると、公正・透明に規制され運営された民間ビジネスとしてのカジノを核に、ホテルとショッピングモール、レストラン、ショーのための大規模劇場、それに米国ラスベガスと同様に大型ビジネス見本市のスペース(大規模な展示場といくつもの会議室)が併設されている施設区域がイメージされている。
ラスベガスがそうであるように、ビジネスでもプライベートでも多様な目的に使うことができ、外国からも国内からも多くの客を呼び込む目的を持っている施設群だ。
カジノ関連ビジネスを模索している企業からは、法案がめざすIRについて「新しい街作りであり、夢がある」、「すそ野の広い産業を生み出すことであり、新しい日本作りだ」といった声が聞かれる。
企業や自治体で盛り上がる参加意欲施設の多様さや規模を反映して関連ビジネスは多様であり、カジノビジネス関連でよく話題になるパチスロ関連機器メーカーばかりでなく、日本を代表するような大企業の多くがビジネスチャンスを狙っている。
総合建設、不動産、エンターテインメントやメディア、大手製造業などで、IR調査室といった部署を設け、情報収集にあたらせている企業が多数ある。
推進法案の段階では、IR を建設する場所は「別に法律で定めるところにより地方公共団体の申請に基づき国の認定を受けた区域」(IR推進法案第2条2項)となっており、順調に法の整備が進むとしても、まだ日本のどこに初のカジノができるかはわからない。
にもかかわらず、東京都や大阪府、沖縄県をはじめ多くの地方自治体がカジノ誘致に意欲を表明している。
どこの自治体が選ばれるにせよ、施設が大規模であるため広大なひとまとまりの遊休地(または簡単に取得できる土地)が必要であり、外国客のために空港からのアクセスが良いことも必須になる。
2020年のオリンピック誘致を決めた東京都は、都有地が多く羽田空港からも近いお台場地区を持ち、第一号の有力候補と見られていたが、IR誘致に熱心だった猪瀬直樹知事の辞任で、いったん振り出しに戻った。
誘致合戦への参加継続かどうかは舛添要一知事の意向による。
自治体が主務大臣から認定を受けた後、実際の運営企業選びとなるが、広域の多様な施設であり、かつ大規模な投資額を必要とすることから、少なくとも数社が名を連ねるコンソーシアムとなる見通しだ。
核となるカジノの運営については、成功したビジネスモデルと世界中の大口顧客名簿をすでに持っている米国系などのカジノ運営会社を何らかの形で組み込む必要もある。
このコンソーシアム作りはすでに水面下で始まっており、海外カジノ運営会社のトップが日本をたびたび訪れている。
また、そうした会社とも連携しつつ、IR建設の際の大型金融プロジェクトを引き受けるために外資系投資銀行も動いている。
悪いイメージ払拭にも公明正大な議論が有効自治体や民間企業の皮算用はともかく、IR法が順調に整備され、日本版カジノが実現するための最大の難関は、日本人に広くあるギャンブルや賭博への悪いイメージを払拭し、カジノやIRに対する認識を深めることができるかどうかにある。
今回の議員立法でまず推進法を作り、1年後に実施法を作るというプロセスを踏んでいるのも、正しくそこに問題意識があるからだ。
世界の主要国はほとんど、賭博を禁止する法律を持ちつつ、厳格な規制の下でのカジノ運営を認めている。
IR議連で法や運営について検討のための参考にしているのは、米国、英国、スイス、豪州、ニュージーランド、シンガポール、カナダなどだ。
その他、王侯貴族の遊び場としてカジノを生み出した欧州諸国にはほとんどカジノがあり、近年ではマカオ、韓国、フィリピン、ロシアなどの地域が外国人観光客誘致のために大規模カジノ施設の建設や運営に力を入れている。
日本では現状、法律(刑法185条の賭博罪など)で私的な遊び以外の金銭を賭けることや客相手の賭博業を禁じている。
そして、公営ギャンブルと日本独特のパチンコ産業が存在していながら、主要国にあるタイプのカジノがない。
日本人にわりと広くあるギャンブルに対する悪いイメージはこの現状を反映しているものと思われる。
まずは法律が禁じているから悪いことであると考える人が多い。
さらに、公営ギャンブルにしろ、パチンコ産業にしろ、規制や運営のあり方が不透明であり、不信感がある。
それらが悪いイメージの源泉となっている。
なぜなら日本人には、小額の賭けや家族・友人だけの賭け麻雀など、私的な賭けごとを嫌う人は少ないのに、ギャンブルと聞くと悪いと反応する人が多いからだ。
その意味では、国会でのIR法案審議を通じて、カジノの何が問題なのか、どんな規制や運営を採用すればその問題が解消するのか、といったことを公明正大に議論することは、なんとなく湧いてくる悪いイメージを払拭するのに有効だ。
IR法制化への長い歴史日本で政治や立法の場でのカジノが話題になったのは、1999年に当時の石原慎太郎都知事が「お台場カジノ構想」を唱えてからだ。
98年には、欧州で広く行われているサッカーくじにヒントを得たスポーツ振興くじ法が成立していた。
石原氏は、次は欧米によくあるタイプのカジノの実現を、という思いだったのだろうが、カジノの場合は国民の関心が盛り上がらず、カジノ立法化への動きは始まらなかった。
2002年には、自民党内に「カジノと国際観光を考える議員連盟」が発足。
カジノだけをクローズアップするのではなく、各種観光施設を一体化したIRとして日本版カジノ実現をめざすようになった。
2006年には自民党政調会の中にカジノエンターテイメント検討小委員会を設け、法制化へ動き出そうとしていた。
それが、2007年、参院での民主党の第一党への躍進、2009年民主党政権の誕生で、やや減速することに。
民主党内でも同様の問題意識を持つ議員がいたため、2008年に政調会内に新時代娯楽産業健全育成プロジェクトチームを設けた。
そして、2010年、超党派のIR議連の結成に至った。
ところが、民主党は2011年の震災後の対応などにより分裂し、政局は混乱。
超党派議連では着実なIR実現へ向けて、議員立法による推進法と政府の作る実施法の二段階方式とすることを2011年に合意した。
2012年に自民党が政権復帰し、落ち着いて議論できる形にはなったものの、IRについての議論は、目先の経済対策や安全保障関連の議論に比べると優先度が低かった。
2013年、自民党内IR推進派は安倍政権が重視している成長戦略に関する議論の場(産業競争力会議や観光立国推進閣僚会議)で何度もIRを持ち出し、環境醸成した後に超党派の議員立法としてIR推進法案を12月にようやく国会へ上程することに成功した。
同法案の国会審議が始まれば、2014年は広く国民の間でカジノを議論する年になるだろう。
後編へ続く
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