誘致や悪影響の具体的規定なく、甚大な社会的損失懸念も10年来のテーマがいよいよ本格的に動き始めたという感がある。
しかし法律専門家としての観点から見れば、かなり多くの懸念事項が残された状態での船出である。
それは、この法案が通常の法律とは違い、いわゆる「プログラム法」と呼ばれるものであり、カジノ解禁の具体的内容がほとんど規定されていないことに起因する。
今回提出されるカジノ解禁推進法案の問題点を、以下に検証する。
Business Journalから
選定・評価機関の人選の客観中立性の重要さどのような機関がカジノ設置区域の選定や評価を行うかについても、カジノ解禁推進法案には一切規定されていない。
カジノ解禁実施法において規定されることになるのであろうが、その機関の人選は極めて重要である。
端的にいって、カジノは巨大な利権を内包する。
筆者は、そのこと自体を否定的に捉えはしないが、カジノをめぐる法制度は、国民に重大な影響を与えるがゆえに、不当に歪められることがあってはならない。
カジノ設置区域の選定基準の策定や評価を行う機関から、利害関係者を徹底的に排除し、客観中立的な運営を図る必要がある。
カジノ解禁推進法案においては、「特定複合観光施設区域(カジノ設置区域)の整備の推進のために講ぜられる施策に係る重要事項について調査審議し、本部長(内閣総理大臣)に意見を述べる」機関として、「特定複合観光施設区域整備推進会議」を設け、内閣総理大臣が任命する学識経験者20人以内で組織すると規定されている。
この「推進会議」の人選も極めて重要であり、カジノ法制を利権によって不当に歪めるおそれのある人物が入り込まないか、国民及びメディアは注視する必要がある。
国民が重大な関心を持ち続けなければ、カジノ制度は、利権関係者によって私物化する恐れが高い。
そうなれば国民にカジノ施設の収益が還元されないばかりか、カジノ解禁による社会的コストだけを一方的に押しつけられることなる。
負の影響への手当ても一切具体規定なしカジノを解禁した場合に想定されている「デメリット」(負の影響)として、反社会的勢力の関与、犯罪発生、風俗環境の悪化、過剰な広告宣伝、青少年の健全育成への悪影響、依存症、多重債務者の発生、ゲームの不公正、チップその他の金銭の代替物の不適正な利用などがあげられるが、カジノ解禁推進法案は、これらの負の影響への具体的手当てについても一切規定していない。
単に、「政府は、必要な措置を講ずるものとする」とか、「別に法律で定めるところにより、規制を行うものとする」とか書かれているだけである。
このように負の影響への具体的手当てが一切規定されていないにもかかわらず、カジノを解禁するという結論のみを先に決めるという手法で、国民の根強い懸念が払拭されるのか疑問である。
カジノ解禁の負の影響への手当てについても、ある程度は条項に盛り込むべく、国会における法案の修正も検討すべきであろう。
ちなみにカジノ議連は、カジノ解禁推進法案とともに、「特定複合観光施設区域整備法案(仮称)~IR実施法案~に関する基本的な考え方」と題する文書を発表している。
そこでは、例えば、カジノにまつわる犯罪につき査察官制度を設け、逮捕特権を保持するなどと書かれている。
しかし、これは後のカジノ解禁実施法案の内容についての、議連としての単なるアイディアあるいは論点出しにすぎず、法的拘束力をなんら有しない。
従って、実施法案(議員立法ではなく、内閣提出による閣法を想定)においてそのようなことが実際に規定されるかどうかは全く別の話である。
また、「基本的な考え方」には、カジノ設置区域については、「大都市型」と「地方型」の二類型が構想されることが望ましいとも書かれているが、これも、単なる議連としてのアイディアにすぎず、そのような二類型に分けて選定基準が策定されるかどうかは全く決まっていないし、カジノ解禁推進法案にも規定されていない。
徹底した審議が必要筆者は、法律によって「賭博に関連する公正な社会秩序」(カジノ解禁の実質的な正当化根拠)を確保でき、かつ、国民が(十分な情報を提供された上での)熟議の結果、総体として、メリット(雇用増、税収増、財政改善、観光振興、国際的大規模会議誘致、新たな文化の発信など)がデメリット(依存症患者や多重債務者発生のおそれ、勤労の美風への影響など)を上回ると判断したならば、カジノを解禁してもよいと考えている。
しかし現状のカジノ解禁推進法案のみを前提とすると、「賭博に関連する公正な社会秩序」を確保できるかどうかは不透明であり、白紙委任に近い状態で、カジノを解禁するという結論だけを先に決めることになりかねない。
例えるなら、具体的な内容の契約書もなく、どのような構造やデザインの建物が建つかわからないのに、先に高いお金を払って、とにかく巨大な建物の建築を業者に発注するような状態である。
よって、国会における徹底審議を強く求めたい。
議連が発表している上述の「特定複合観光施設区域整備法案」は、(カジノを民営で解禁するという前提に立つならば)概ね合理的な内容となっている。
そこで、この一部について国民との約束事として法的拘束力を持たせ、国民の懸念を払拭するべく、カジノ解禁推進法の条項に盛り込むことを検討してもよいのではないか。
民営賭博を特別法で解禁するのは、我が国初の法制であるので、高い法技術性・専門性が求められる立法作業ではあるが、しかるべき法律専門家が関与すれば、十分に可能である。
(文=山脇康嗣/弁護士)
山脇康嗣(やまわき・こうじ)
1977年大阪府生まれ。
慶應義塾大学大学院法務研究科専門職学位課程修了。
東京入国管理局長承認入国在留審査関係申請取次行政書士を経て、弁護士登録。
入管法のほか、カジノ法制に詳しい。
現在、第二東京弁護士会国際委員会副委員長。
主要著書として、『詳説 入管法の実務』(新日本法規、単著)、『入管法判例分析』(日本加除出版、単著)、『Q&A外国人をめぐる法律相談』(新日本法規、編集代表)、『事例式民事渉外の実務』(新日本法規、共著)、『こんなときどうする外国人の入国・在留・雇用Q&A』(第一法規、共著)がある。
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